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2019/11/28公開

大学進学は「正解」か──「学歴」をいくつかの視点で検討してみる

10年ほど前から「大学全入時代」と言われるようになりました。

良い企業に就職するために、良い大学に行くことが人気を集め、入学率は年々右肩上がり。しかし、「大学へ行く」というキャリア選択が必ずしも正解と言えるのでしょうか?

いくつかのポイントで考えてみましょう。

データで見る「大学全入時代」、2018年度、大学・短大進学率は過去最高に

文部科学省が毎年実施する「平成30年度学校基本調査」によると、2018年、大学、短大への進学率は57.9%で過去最高を記録しました(うち、大学のみの進学率は53.3%)。多くの人が大学に進学するようになった今なお、その割合は増えています。

少子化が叫ばれる中、大学数も過去20年で178校増えていて、こうした大学の増加も進学率上昇に拍車をかけています。

過去の調査をもとに、大学進学率の推移を示したのが下のグラフです。

文部科学省資料を元に作成

昭和25年(1950年)から現在までの約70年の間に、高校への進学率は40%台前半→約98%へ、大学、短大への進学率は約10%→58%へと推移しています。

ひと昔前までは、大学へ行くことも、高校へ進学することすらも当たり前ではなかったのです。

ではなぜ今、多くの人が大学進学を希望するのでしょうか?

高卒と大卒では、生涯年収に5000万円以上の差

下のグラフは、「高卒」と「大卒・院卒」の年齢ごとの平均年収と、生涯年収を表しています。

厚生労働省「平成30年度賃金構造基本統計調査」を基に作成、グラフは男性の場合の数値)

男性の場合、20歳〜24歳時点では、大学・大学院卒と高校卒の収入差は28.5万円とそこまで大きくはありません。

しかし、その後は徐々に差が拡大し、30歳以降にその差は大きく開きだします。

・30〜34歳:65.4万円/年
・40〜44歳:118.3万円/年
・50〜54歳:182.5万円/年

20歳〜69歳までの50年間の生涯年収を計算すると、大卒・院卒が1億9562万5千円、高卒が1億3959万5千円で、その差額は5603万円。大学4年間の学費を大きく超える差が開くのです。

企業は「優秀だから」大卒を選ぶのか?

では、なぜこうした収入差が生まれるのか?

就活情報サイト「キャリタス就活2020」が発表する就職希望企業ランキングによると、大学生の人気トップ3は順に「伊藤忠商事」「三菱商事」「JTBグループ」となっています。

「キャリタス就活2020」発表の就職希望企業ランキングより引用

例えば、伊藤忠商事の新卒採用の募集要項ページを見ると、総合職、事務職いずれも応募資格に「四年制大学又は大学院を卒業又は卒業見込みであること」とあります。三菱商事の総合職採用、JTB本社の採用に関しても同様です。

つまり、多くの大学生に人気があるような大企業はそもそも大学に進学することが応募条件になっていて、それが結果として収入格差の一因になっていると考えることができそうです。

「学歴」は企業が知れる数少ない指標になる

では、なぜ企業は高校生に比べて、大学生を採用したがるのか。

それを考えるために、まずは皆さんが学生を採用する立場だったら、どのようにして学生の合否を決めるかを考えてみてください。

一人ひとりにとじっくり向き合い、学生の能力や人柄を確かめたいと思うかもしれません。しかし、日本のように就職活動の時期が決まっている「新卒一括採用」の場合、人気企業では、一度に数千から数万人ものエントリーがあります。それぞれの学生と会うことはおろか、書類に目を通すだけでも大変な労力です。

こうした中で、企業が学生を選ぶ数少ない判断材料が「学歴」になります。学生の立場としては、学歴は企業に自分の価値をアピールするために一番効果的な「シグナル(信号)」と言えるのです。

このように、企業が知りうる学生の情報が限られているときに、学歴が学生の価値を伝えるシグナルとなることは、シグナリング効果(理論)として説明されることがあります。

ただしもちろん、大学へ進学する人が高卒で働く人よりも必ずしも能力で劣るとは限りません。あくまでも、その人を知る手がかりとして「学歴」や「偏差値の高低」が現在の就職活動では効果的である、ということにすぎないことは注意が必要です。

6割の大学生は「ラク単」希望、大学の学びに学費分の価値はあるか

上で見たように、学歴=社会で求められる能力ではありません。しかし、大学に進学することで、一般的には4年間、専門的な学びを受けることができるのは、大学の大きな価値の一つと言えます。

一方、実際の大学生たちは、学びについてどのように考えているのでしょうか?

ベネッセ教育総合研究所「大学生の学習・生活実態調査」の結果を見てみましょう。これによると、約6割の学生は「あまり興味がなくても、単位を楽にとれる授業がよい」と回答。結局のところ、大学を“卒業する”ことが目標であり、学びを深めようとする姿勢は乏しいのが現状です。

ベネッセ教育総合研究所「大学生の学習・生活実態調査」を元に作成

同時に76%が「できるかぎり良い成績をとろうとする」と回答しているため、積極的な姿勢ではなくても、大卒の資格を求めるために、真面目に授業を受けている学生も多いのかもしれませんし、その結果身についたこともあるでしょう。

しかし、4年間という長い時間と、私立大学であれば年間100万を超える学費を費やした分に見合う能力を得られているか、という観点で見たときに、本当にその価値があるのかどうかは、考える必要がありそうです。

eラーニングの活用で大学は不要に? 一方で修了率に大きな課題も

また、なにも大学だけが学びの場ではありません。

最近では、eラーニングと呼ばれるような、オンラインでの学習環境も整ってきています。例えば日本最大規模のプラットフォーム「JMOOC」は会員数100万人超え。早稲田大学、慶應義塾大学、明治大学など多くの大学が講座を提供しています。

利用料は無料。大学4年間の学費を払わずとも、質の高い専門的な学びを受ける環境が整ってきています。

一方でeラーニングには、その修了率の低さに課題が指摘されています。海外の調査によると、MOOCの修了率は約5.5%と、一般的な大学の単位取得率と比べて大きく差が開いています。

もちろんある単元だけを学びたかったという人もいるでしょうし、修了率が低いことが必ずしも問題ではないかもしれません。しかし、やはり学ぶことへの強制力がない環境では、モチベーションの維持などの面でハードルがあるように思います。


今回は、大学に行くという選択肢を考えるために、いくつかの視点から検討しました。どちらの選択にも正解はありませんが、改めて、大学進学というキャリア選択を見直し、より良い選択をする助けになればと思います。

著者

チョットーク編集部

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